
林芙美子の絶筆の同名原作を久松静児監督が映画化した女性ドラマ。戦後崩壊した日本の家族を、特異な例として女だけの家族に照射して描いている。劇とは思えないほど現実的で生々しい会話や行動にはっとさせられる。
大阪近郊の千里山駅の近く。滝沢家は、夫亡き後、夫の残してくれた家で、三人の娘を育て上げた母の雪江(三益愛子)を中心に女ばかりの5人家族で暮らしている。長女の時子(新珠三千代)は、夫を山の遭難で亡くし、まだ小さい娘と一緒に実家に戻って暮らしている。次女のるい子(久我美子)は、会社の上司と不倫関係にある。そして、三女の秀子(黛ひかる)は思いやりがあり、母親の雪江と一緒に暮らすつもりでいる。
そんな「女家族」だが、るい子の縁談話から、家族の中に微妙な隙間が生まれ、雪江の思惑とは違ってそれぞれが勝手な行動をとるようになる。家の名義がるい子になっているのをいいことに、姉妹たちは家を売ってそれぞれバラバラに暮らそうと考え始めたりする。それを聞いて雪江は落胆するが・・・
2012年の現代では核家族化が進んでいるために、あまりありえない話ではあるが、まだ大家族制度が生きていた1960年代初頭では、家族の崩壊が重大な問題だったのだろう。しかし、姉妹でケンカするだけでなく、娘たちと母親も口げんかするのは、見ていて切ない。考えさせられる作品である。
結局、時子が子供を置いたまま男と東京へ行き、秀子も東北へ転勤になる会社の同僚と結婚して家を出る。一生懸命に育ててきた子供たちが次々と母から離れていく。そして、一番の問題児だったるい子が家に残るという結末が一つの救いになっている。
画面は、久我美子(左)と黛ひかる。
【出演】 新珠三千代 黛ひかる 久我美子 高島忠夫 三益愛子 佐原健二【監督】 久松静児【ロケ地】 阪急宝塚駅 中ノ島公園 六甲山 阪急千里山駅

15歳の夏川静江の初?主演作。「社会教育映画」と自ら名乗っているサイレント教育映画。浅草が舞台だが、関東大震災の翌年の制作なので、残念ながら震災で倒壊した浅草十二階は写っていない。しかし、戦後埋め立てられた「ひょうたん池」(現ウインズ浅草とその裏手にあった)が写りこんでいる。貴重な映像だ。
不幸にもめげず真っ正直に生きる少女と不良少年の友情を軸に、当時の社会情勢を絡ませ、少年が更生していく過程をやさしく描いている。サイレント作品だが、挿入されるテロップは物語の説明文だけで、セリフの挿入がほとんどないのが特徴である。
震災で両親を亡くした少女・お京(夏川静江)は、浅草界隈に巣食うスリの親分・金平(小杉義夫)に悪事を強いられていた。そんな京子をみかねた親分の息子・勘一(夏川大吾)は、彼女を逃がしてやる。お京は、「エレキの仙吉」という札付きの浮浪児に助けられる。道すがら、お京は姉のように仙吉(小島勉)を諭し、更生させようとする。しかし、仙吉は親分の手下に襲われ、負傷する。倒れているところを子供のない山田博士夫妻に救われる。博士との出会いと、お京の真心が通じて仙吉を真人間に立返らせる・・・
スリの親分を演じる、黒澤映画でおなじみの小杉義夫は、このとき21歳。しかし、スクリーンでみる彼は、この若さでおっさんそのもの風貌をしている。
浅草寺の旧本堂(国宝)と宝蔵門、そして旧丸ビルなど貴重な建物が写っている。浅草寺の五重塔が見えないが、これも残念なところ。また、最近、復元作業が完了したばかりの東京駅の駅舎も写りこんでいる。
画面は、夏川静江(右)と小島勉(左)。まだ15歳なのに夏川の演技は自然で素晴らしい。そしてなによりチャーミングだ。
【出演】 夏川静江 小島勉 小杉義夫 高橋豊子 夏川大吾 一色久子 奥村博史【監督】 畑中蓼坡【ロケ地】 浅草寺 ひょうたん池 東京駅

裕福な家の出身でありながら、カフェで働く娘とアパートで同棲する文学青年と、それを支える娘との間に繰り広げられる恋愛ドラマ。当時としては都会派のドラマと言える。とはいえ、妻同然の女性に対する男の冷たい態度、それにもかかわらず男に尽くす娘の真心とのギャップは、戦前の恋愛模様だ。しかし、島津保次郎監督は女心を描くのがうまい。
家を出た谷川茂夫(佐野周二)は、カフェで知り合った美耶子(高杉早苗)と、アパートで同棲生活をしている。茂夫は、小説家を目指して毎日机に向かっていたが、一向に気に入った作品は書けないでいる。そんな彼を美耶子は励ますが、茂夫はそんな美耶子を逆に疎ましく思い、冷たく扱う。
そんな茂夫を心配した両親は、二人を別れさせようとするが、茂夫の妹の俊子(高峰三枝子)は、両親を説得して二人を一緒にさせようと画策する。俊子の努力が実り、両親の許しが出て電話口で泣く美那子の姿が・・・
26歳の佐野周二の二枚目ぶりもなかなかだが、二人の女性がはまり役を演じているのが印象的だ。本作品の公開後に結婚のためスクリーンから去った(後に復帰)、高杉早苗が都会的な美人をしっとりと演じている。その一方で、高杉と共に松竹の看板女優だった高峰三枝子が天真爛漫なお嬢様を演じている。この人が演じると演技じゃないように見えるのが不思議だ。初めて会った兄の同棲相手をすぐに「おねーさま」って呼んでしまうのには驚かされる(笑)
松竹から東宝に譲渡される直前の帝国劇場が写っている。本作品公開時に洋画のロードショー館として営業していた。東宝に譲渡後に演劇専門になった。そんな帝劇で上映された劇中映画が時代を感じさせる。なんと、ナチスのプロパガンダ映画とされている、レニ・リーフェンシュタール監督のベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』が上映されているのだ。
また、本作品には、多数の有名監督がかかわっているのも特徴だ。「監督部」として中久保信成、木下恵介、中村登、「脚本」として大庭秀雄、そして「編集」として吉村公三郎がクレジットされている。贅沢な映画ではある。
画面は、左から高杉早苗、佐野周二、高峰三枝子。両手に花というところかな。
【出演】 佐野周二 高杉早苗 高峰三枝子 坂本武 河村黎吉【監督】 島津保次郎【ロケ地】 帝国劇場

海野十三の同名原作『深夜の市長』の映画化と思ったが、深夜の市長の人物像だけをもらったようだ。川島雄三監督には珍しくサスペンス調の復讐劇。
戦時中に起きた銀行強盗事件で処刑された兄の無実を晴らすため、その五年後に復員してきた弟の憲三(安部徹)は、タクシーの運転手となって、当時のことを知る人物を追っていた。そんなある日、憲三は文吉(山内明)という男を助ける。ところが、この文吉こそ兄の汚名を晴らすための秘密を知っている男だった。
しかし、憲三の行動を陰から見ている男がいた。男は通称・深夜の市長(月形龍之介)と呼ばれ、五年前の事件に絡んでいて、事件の真相を知っている男の一人でもあった。やがて、文吉の黒幕・惑田(三津田健)と影沼(三井秀男)が、憲三を始末しようと動き出すが、深夜の市長が憲三を助けるために動く・・・
登場人物の苗字が、いかにも海野十三の作品に出てきそうな名だが、「深夜の市長」以外は海野の原作の人物とは重なっていない。劇中の主人公は兄の無実を証明する憲三だが、本当の主人公は深夜の市長である。月形竜之介のいぶし銀の演技が光る。面白いのは、市長の格好だ。コートと帽子を脱がず、煙草を咥えて洋酒を飲むダンディ・・・これって川島雄三そのものだろう。
画面は、冒頭で日守新一の銀行員が強盗に殺されてしまうシーン。 いつもとちがって、日守がいかにも実直そうな行員の雰囲気を漂わせている。特別出演だが、わずか3分程度の登場はちょっとかわいそうな気がする。深夜の市長が好きなバーの女給を村田知栄子が好演しているのも楽しい。
【出演】 安部徹 月形竜之介 三津田健 三井秀男(三井弘次) 大阪志郎 山内明 日守新一(特別出演)【監督】 川島雄三【ロケ地】 勝鬨橋

朝日新聞社通信部編「地方記者」を元に、丸山誠治監督が映像化したホームドラマ。事件記者のような派手さはないが、自転車に乗って記事を集める地方記者の淡々とした日常がユーモアたっぷりに描かれている。
冒頭とエンディングに、ほぼ同一シーン(新聞記者のフランキー堺が田舎道で巡査に事件はないかと尋ねる)をもってきている。事件のない地方での新聞記者の様子を示していると共に、事件がないことこそ本当の社会であることを暗示しているようだ。
茨城県の漁港近く、東朝新聞平尾支局で地方記者を務める中野(フランキー堺)は、妻・文子(白川由美)と娘の三人暮らしで、支局を守っている。そんな家庭的な支局に東京から新人記者の三浦健一(夏木陽介)が送り込まれてくる。中野は、地方で起こる派手さはないが様々な事件を通して、三浦に地方記者の心得を教える。
夫を陰で支える美人妻を白川が好演しているが、それ以上にフランキー堺の味わい深い地方記者ぶりが素晴らしい。土屋嘉男、沢村いき雄、左卜全、田武謙三などの渋い脇役陣もスクリーンの雰囲気をしめている。漁村に進出した工場廃液の問題が挿入され、公害が社会的問題となってきた当時の時代背景を示している。
画面は、左から白川由美、夏木陽介、フランキー堺。
【出演】 フランキー堺 白川由美 児玉清 星由里子 夏木陽介 土屋嘉男 沢村いき雄 左卜全 田武謙三【監督】 丸山誠治【ロケ地】 茨城県平潟漁港